第七十回

  

 博覧会場の「博多思い出通り」は予想外の人気です。余勢を駆って博多町人文化連盟会員は、みんな明治時代の服装で、にぎやかな天神(中央区)まで宣伝に出掛けたりもしました。

 「お車処」と書いた人力車は、毎日満員で、アルバイトの車夫さんは休む時間もありません。近くの掘り井戸のそばに粗い竹で編んだ鶏カゴを置いて、つがいを入れましたら、これが毎日コケコッコーと鳴いて卵を産むのにはビックリしました。

 火の見やぐらの下には「思い出雑貨店」があります。懐かしい駄菓子やパッチ、ラムネにニッケ水、日光写真、コマ、ホウロク、ランプ、ショウケ、玩具の糸電話、バケツ、ままごと遊びの七輪やおかま、ガラス製の丸いハエ取り瓶、さてはガンドウ(ブリキ製の円筒中にロウソクをともす昔の照明具)も売っています。

 酒屋さんには、杉の枝を球形にまとめた酒ボテの看板をぶら下げ、家の門口には、お潮井テボ(清めの砂を入れた小さなかご)、それに初庚申(こうしん)の厄よけ。赤いサル土面なども掛けてあり、道路でゆっくり腰掛けてお話できるバンコもあります。

 広場では期間中、「博多民謡協会」の児島清さん、「那の津会」の甲斐寿雄さん、中村しげ子さんたちが古民謡「博多の四季」「博多カッチリ節」「しょうさいさんの思い付き」など懐かしい唄を聞かせてくださいましたし、石田清高さんはオッペケペー節を披露してくれました。

 時間を逆回転させたような私たちの夢は大成功。博覧会終幕の夕刻、広い会場に「ホタルの光」の曲が流れ、大群衆が帰って行かれるときは涙でいっぱいでした。いよいよ今日限りで、この「思い出通り」も壊されてしまいます。この瓦も、柱も、格子戸も…。

 閉会が近づくにつれて「残して欲しい」という投書や電話が、年配者だけでなく若い女性や小学校三年生の女の子からも事務局にかかってきていたのですが、その輸送や再現のための費用のことを思うと、確かな返事ができなかったのです。

 「もったいなかなア。だれかもろうてくれる人はないかなア」


(1993年 画家 著書より)


  

 

   
  


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