第五十三回

  

 そのころ新聞で「ナショナル冷蔵庫ドア・デザイン募集」という一ページ広告を見ました。自分のかいた絵が冷蔵庫のドアになったら楽しいだろうなあと思い、時間があれば応募してみようと思っていたある日、木琴のたたき棒のような草花が道ばたで風に揺れているのを見つけて「これだ!」とヒントを得たのです。

 心の中で「しめた!」と思い、さっそくふだんの仕事をやめていろいろ下絵をかき、丸形のコンパスで、茎も烏口(からすぐち)で細く幾何学的にスウッと引きました。出来上がってみて、自分ながらシャレた作品と思いましたが、どうも西島の個性が出ていないようで、もう一枚童画をクレヨンで描き、締め切りの前日送り出しました。

 それから三ヶ月ぐらいたったある日「松下電器の本社の者ですが」と玄関に二人の紳士が訪ねて来られたのです。

 「何事でっしょうか?」

 予告なしに本社から私のアトリエをわざわざなぜ訪ねてこられたのか分かりません。実は作品を応募していたのも忘れていたのです。しかしちょっと間をおいて気付きました。

 「あっ!私の図案が一等賞になったとでっしょ!」

 「ウーム・・・。いいえ・・・。あなたはどんなデザインを応募されましたか?」

 「それは言われまっせん。ハハー、あなたたちはほかの会社のスパイじゃござっせんな?」

 「なんですか!そんなこと言われるとは心外です!ハッキリ返事ができないだけです!」

 「いいや、ナショナルさんなら大阪弁のはずバッテン、あなたたちは東京弁じゃけん・・・・・・」

 私が真顔で言うもんですから、困り果てたお二人はちょっと玄関を出て相談されたあと「私たちがきょうお伺いしたのは、ほぼあなたが一等に決まったので、どんな人なのか調査に来た」との白状です。そして、このデザイン募集の本来の目的からは素人の主婦に一等賞を取ってもらいたかった、と言われるのです。主婦の方が話題になるからでしょう。

 調査というのは、つい先ごろまで万国博マークで騒がれた男が、落選するかもしれない一般公募のコンクールに、本名で応募したのかどうかが疑問であったようでした。


(1993年 画家 著書より)


  

 

   
  


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