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今日は「テレビ絵のおじさん」が僕らの町の銀行支店に来るとの評判が行き渡ると、開店時間前には子供連れのお母さんたちがズラリ長蛇の列です。いくら私が絵をかくのが速いといっても、テレビのように早回しのごまかしはできませんし、皆さんの前で一人の赤ちゃんの顔を見てかくのには七、八分はかかります。 支店の応接間を今日一日だけのアトリエとして、順番にお母さんと子供さんに入ってもらいます。私の目の前に座ると、病院の先生に注射されると思ってか「ワーッ」と泣き出す子もいます。おとなしすぎて下ばかり向いている子。しつけがよくキチンと座り、笑顔まで浮かべる子。人慣れしすぎて「おいさんは絵のうまかねえ」とのぞき込む子。母親はきれいに着飾っていても子供は汚れていたり、その逆であったり。丁寧にあいさつする人、しない人。社会の縮図を見るようでした。 長い間待って、やっと自分の順番がきたときには、赤ちゃんが眠ってしまって、それがまたとてもかわいいのでそのまま描こうとしたら、ポンと頭をたたいて目を覚まさせるお母さん。連れて来た子供さんをみんな描いていたらキリがないので「一家にお一人」とお願いして、兄ちゃんだけを描いたら妹が「あたちもかいてえッ!ワーッ!」と泣き出す始末。双子の場合は「一枚に二人描いてもろうても、よござっしょうもん」とせがまれて、仕方なく片方の子と同じ顔を並べたこともあります。 この「お子様似顔絵スケッチ」も昭和四十三年から続けていますが、六年ぐらい前に小倉の支店で、赤ちゃんを抱いた若い奥さんが「私が赤ん坊の時に描いてもらった絵です」と二十年前の色紙を持って来られたのには感激しました。その若いお母さんがまだ赤ちゃんのとき、私の前に座るとワーッと泣き出すので、向こうのカウンターに座らせて、知らぬ顔をしながら横目で見て描いてあげたのを昨日のことのように覚えています。月日のたつのは早いものだとつくづく思いました。 私がこれまでにかいた似顔絵は、だいたい六千枚、自分ながら驚いています。それがまた、自分で言うのもおかしいのですが、どれもよく似ているのです。子供の顔は大人と違って同じようだろうと思ったら大間違い、人間の顔は子供のときからあまり変わっていないことに気付きます。 ![]() (1993年 画家 著書より) |