第三十九回

  

 「日宣美」といいますのは「日本宣伝美術会」の略称で、資生堂やニコン、キャノン、森永、明治製菓や当時の映画会社などの宣伝を担当していた技術者ばかりが結成した、いわば日本のデザイン専門家の集団です。

 二科の商業美術部門の設立と同時に発足した会ですが、東京主軸なので地方の私たちにはどんな会なのか分かっていませんでした。

 当時は、会の内容を理解しないまま九州全体が「二科展」と「日宣美」の二つに分かれていったようです。

 そういう空気の中で私は、七年間所属していた二科を辞め「日宣美」に入会することにしたのです。「日宣美」に入って、初めての福岡展が岩田屋で開幕のとき、あいさつしながら「二科の男」が「日宣美」の軍門に伏したような感もあり、涙がこみあげて貴賭場になりませんでした。

 わたしは、ただ自分の仕事の「方向」を見いだそうとしているだけです。郷に入ったら郷に従え、自分の思うままに生きて、新しい会の中でガンバろうと思いました。

 「日宣美」は、それまで「広告のビラ」としか評価されていなかったものを、「新しい芸術」として打ち出した日本の新しいデザインの開拓者ですから、新聞もよく取り上げてくれました。それまで絵や彫刻の展覧会はあっても、ポスターの展覧会はなかったのです。初めは約六百点だった全国からの応募作品が、五年目には二千点を超えるようになりました。

 亀倉雄策の幾何学的な神経の行き届いた作品、杉浦公平という東大建築学科卒の知的な作品、山城隆一の柔らかい詩情、早川良雄の新しい感覚、中村誠の資生堂ポスター、田中一光の日本的な幽玄の世界、福田繁雄のからくり、和田誠のユーモア、横尾忠則の昔の図案を近代化したデザイン等、毎年毎年驚くように新鮮な作品が発表されていきます。

 私の、このまま博多に住んでいては井の中の蛙(かわず)になりかねないと何度思ったか分かりません。上京すると、日本の第一線級デザイナーの仕事場を訪ね、その考え方や仕上げ方、材料までも見逃さないように心掛けました。


(1993年 画家 著書より)


  

 

   
  


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