第十六回

  

昭和十八年十二月八日、ふろしき包みと「奉公袋」を持って佐世保第一海兵団の門をくぐりました。

さっそく白い作業服、戦闘帽に着替えさせられ、つり床(ハンモック)のつり方、直し方の練習に日課の説明。持ってきた私物は即日家に送り返し、まったくシャバと離れた姿にされました。その緊張と忙しさは、つい一週間前まで勝手な暮らしをしていたのがウソのようです。

午前六時「ピイッ!総員起こし五分前!」ガバッと跳ね起き、ハンモックをくくり洗面を終えて朝の整列。

寒風吹く朝もやの練兵場を駆け足。海軍体操のあと、軍歌帳を目の高さに持ち、ザックザックと歩調をとりながら○四面海なる帝国を 守る海軍軍人はァ…と力いっぱい軍歌の演習です。

昼の学課では軍人勅諭の暗記。

「わが国の軍隊は世々天皇の統率し給うところにぞある…」に始まって「一つ軍人は忠節を尽くすを本分とすべし。一つ軍人は礼儀を正しくすべし。一つ武勇を…、信義を…、質素を…」

この文章が長く、覚えるのが一苦労でした。

入団三日目ぐらいになると、「巡検終わり!たばこ盆出せ!」の号令で、新兵もハンモックから降りてたばこ盆の周りに腰かけ、お互いに話をするようになりました。私は知人の上官からもらった菓子袋を出しながら

「食べなっせえ、あなたは、どこから来らっしゃったとですな?…」
「へえ、四国の徳島ですわ」
「わしゃァほう、熊本県玉名の百姓ですたい」 
「おどまァ、この佐世保の生まれで、自分の庭でたたかれに来たようなもんたい」

みんなやっぱり寂しそうです。

そんな海兵団に入団してわずか一週間目、突然、「南方へ行く者はおらんか!前へ出ろ!」との命令です。

一瞬、みんな顔を見合わせて、どう返事したらいいか分からず黙っていると、再度「おらんのか!」

このまま返事しないとまた、しごかれそうです。

「だれか早く返事をしてくれないか」と祈っているうちに「寒い内地で鍛えられ、氷のような水で洗濯させられるより、南方のほうが辛抱できるだろう。ひょっとすると南の島のスケッチができるかもわからん」と、単純な思い付きで「ハイッ!」と前に出てしまいました。

(1993年 画家 著書より)

    

  

   
  


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